2011年8月7日日曜日

書評6 渇水都市(江上剛著)

江上剛の作品は以前にも読んだことがあり、良いイメージがあったので本作も読んでみる気になった。
以前読んだ作品は金融関係の小説で、銀行・金融関係で重要なキャリアを経てきた彼の知識が
存分に発揮されていて読み応え十分の作品だった。
本作「渇水都市」は何も事前情報なく図書館の書棚から拾い出した作品だったが、
ハードカバーの表紙とタイトルから「未曾有の熱波が都市を襲うパニック小説」の類だと思っていた。
だが、実際は・・・・。
*以下、ネタばれを大いに含みますので、ご覧になる方はご注意下さい。


舞台は近未来の東京。国家・地方財政状況の極度の悪化により、水道事業は民営化され
水メジャーのウォーター・エンバイロメント社(以下WE社)の管理下に置かれた。
WE社は貴重な資源となった水をビジネスの道具とし、水道代は公共サービス時の10倍にもなった。
謎の奇病「青斑病」が乳児に流行する中、WE社末端社員の海原剛、ジャーナリストの水上照美らと、
WE社社長と野心家の部下の間で環境をめぐる戦いの幕が開かれる・・・。

物語のリード部分はおおざっぱにはこんな感じで、至極まっとうに楽しめそうな作品なのだが、
中盤から話の雰囲気ががらりと変わってしまう。
ダムでの魚の大量死の原因を探りに主人公達が赴くと、主人公は突然のダムの渦巻きに呑まれてしまい、
「水の国」に連れて行かれてしまう。この時点で、あれ?そういう展開になるの?という感じだが、
主人公の海原が水の国の亡くなった王の息子、つまり次の王と明かされ、「おいおい」感は益々強まって行く。
その時点で、読む前に抱いていた作品への先入観、期待感は既になくなっており、
それに代わって「この話、どうやって終わらせるんだろう・・・」という好奇心のみで読み進むようになった。
読者の唐突感が消化する前に、主人公海原は王としての自覚に目覚め、部下達にそれらしい指示を出し始め、
途中で別れた元上司は敵方に取りこまれ天晴れな程の小物悪党になっていく。
その後も、水の国の戦士(異次元?にある水の国により選ばれた、修行僧の様な格好で戦う集団)同士でのテレパシー、
警察に追い詰められた際にはワープゾーンを作り出して脱出、などトンデモ展開は続く。
いや、もともとファンタジー路線の物語だったのなら、これが王道なのだろうか?

クライマックスでは、水の国の戦士達が悪の巣窟であるWE社本社ビルに突撃し、
子飼いの警官隊、特殊部隊とドンパチやりながら総大将を目指すという、ゲーム的な展開となる。
ちなみに、水の国の戦士の武器は波動砲なるもので、麻酔銃のようなものらしい。もう何でもあり。
総大将達との対峙の中で明かされる驚愕の真実・・・・と言いたいところだが、ここでも自分の期待は裏切られた。
なんと、WE社自体も水の王国の先王の意思で創設され、水の大切さを庶民どもに理解させるためのものだった。
散々人道的な団体(国?)であることをアピールしておいて、自分達の存在意義のためには
社会の恣意的な変革、それに伴う混乱と経済弱者の虐殺を敢行して悪びれる気配もなし。
しかも、敵味方、その他の庶民も誰ひとりそれに異議、反論を差し挟まない。
どうやって話を収拾させる気かと思ったら、最後はWE社のビル内部のバルブを回し溢れた水で、
都市を水に沈めて「ノアの箱舟」状態でハッピー?エンド、となってしまった。
舞台となっている北東京市の人口は5万人以上10万人以下、との記述があったが、
地上50階建くらいのWE社本社ビルにいったい何人が避難出来たのだろうか?
避難してくる庶民達を待ったり迎えたり、っていう描写もなかったし。


ファンタジーだろうとノンフィクションだろうと構わないけど、
一回読んだだけでこうやって印象に残ってしまう矛盾点があっては駄目ですな。
中盤からの急転直下の展開と衝撃(悪い意味で)のラストは、編集社の手入れがあったのかも?
次は彼の小説を選ぶ際には、金融関係の作品を選ぼうと思います・・・。