2012年8月25日土曜日

書評8 秋吉英明事件

数奇な運命をたどり、冤罪で死刑判決に控訴している秋吉英明氏を描いたノンフィクション。

 事件の内容や犯行はクライマックスまで語られないので、それよりも、
満州から引き揚げた戦後間もない時代、高度経済成長期に向かう時代描写が印象的だった。

海沿いであれば、登校、出社する前に桟橋で少し糸を垂らせば海の幸が簡単に取れた時代。
秋吉氏の放浪癖があるにしても、なんとなくつてで仕事を見つけて口に糊することは出来た時代。
秋吉氏は政治運動に全く関わらなかったようなので作中ではほとんど話題にあがらないが、
安保闘争、ベトナム戦争、東西冷戦と政治的にも非常に緊張と混迷が入り混じった時代だった筈だ。
また、いわゆる高度経済成長期は、工場労働者や肉体労働者であれば1日12時間労働が当たり前。
2000年初頭の中国は1970年台の日本だ、なんていうことが言われていたが、
こういうダイナミクスな世界で生きている人間と、成熟した社会で暮らしている人間では、
感受性や考え方におのずと違いが出てくるだろう、とも感じた。


秋吉氏と被害者一族、いずれが真実を述べているのかは判断できることではないが、