2009年11月23日月曜日

書評5 ゴールド―金と人間の文明史

ピーター・バーンスタインの好著「ゴールド」を一週間かかって読み終わりました。

金(ゴールド)が人類史に果たしてきた役割と、人がいかにこの魔性の金属に魅入られてきたのか、
年代を追って様々な逸話を挿入しながら説明されており、非常に興味深かったです。
ついでに、個人的にずっと感じていた「何故ロシア(≒ソ連)はあれだけの大国になれたのか?」
という疑問に、ゴールドの大産出国であったという形での答えが今更ながら分かりました。

著者は終わりに、ドルが通貨としての信用を完全に失うことがあっても、ユーロ、円などの
通貨がある限りはもうゴールドには通貨としての役割がまわってくることはないだろう、と考察しています。
しかし、現状まさに各通貨への不信感により、民間から中央銀行までゴールドの買い付けにはしり、
連日新高値更新のニュースを聞く羽目になってしまっています。
ドルの単独基軸通貨制から、緩やかに多極化に向かうというのが一般的な見方ですが、果たして・・・?
この著作で通貨、金融の歴史の流れを追ってみて、完全なドル本位制と変動相場制に移行してから、
まだ30年程度しか経っていないことに改めて気が付きました。
自分が思い込んでいるほど、現在の制度は長い伝統に支えられた確固たるものではないのでしょう。
通貨制度に限らず、現状は常に次の制度への移行の過渡期に過ぎないのかもしれません。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E2%80%95%E9%87%91%E3%81%A8%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E6%96%87%E6%98%8E%E5%8F%B2-%E6%97%A5%E7%B5%8C%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E4%BA%BA%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3/dp/4532192692


尚、補足資料としては佐藤賢一の「英仏百年戦争」がお勧めです。
金融関連にはほとんど言及されていませんが、近代欧州各国の主要国のそもそもの成り立ちが良くわかります。
少し前に読んだ本なので細部は忘れてしまいましたが、要は百年戦争はフランス王家同士の内戦の様なもので、
当時のフランス王家の勢力、正統性というのは、ちょっと現代からは考えられない程確たるものだったようです。
それでも、各国の大貴族の利害関係の諍いは近代国家の陸軍と海軍の対立どころではなく、
それで戦況ががらりと変わってしまうこともしばしばあったようですから、
国家というより血統に対する信仰、価値によるものだったのでしょう。

http://www.amazon.co.jp/%E8%8B%B1%E4%BB%8F%E7%99%BE%E5%B9%B4%E6%88%A6%E4%BA%89-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E8%B3%A2%E4%B8%80/dp/408720216X

上記百年戦争の様子と当時の空気を感じたいのなら、同じく佐藤賢一の「傭兵ピエール」がお勧めです。
戦勝者による略奪は当たり前、どんな目に合おうが生きていればめっけもん、という殺伐とした
時代であったことを描く一方で、憎めない傭兵隊長の成功譚と聖女とのラブストーリー付きという名作です。
ちなみに作中でも、主人公ピエールの傭兵団が捕虜となった仲間の釈放に身代金を払うシーンがありますが、
経理役に「質の悪い硬貨」で支払うよう指示して実質の出費を半分くらいに済ませています。
信用で成り立っている現代の紙幣でなく、磨滅する銀貨、金貨という現物だったからこその描写ですね。

http://www.amazon.co.jp/%E5%82%AD%E5%85%B5%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E8%B3%A2%E4%B8%80/dp/4087751961


挙げる順番が逆になってしまいましたが、「ゴールド」で記述されている14、15世紀頃の欧州の様子や、
フランス、イングランド(イギリス)という2大国の関係をなんとなくでも把握するために、
「傭兵ピエール」あたりから読み始めた方がとっつきやすいと思います。

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