2009年4月29日水曜日

書評3 蟹喰い猿フーガ

著者 : 船戸与一(ふなと よいち)

舞台はアメリカ、湾岸戦争後の90年代のお話ですが、冒頭のケンカシーン以外では、そういった時代背景は物語には基本的に関係ないです。
主人公がコックをしてこつこつ貯めたお金を、睡眠薬泥棒に巻き上げられるところから犯罪人生スタート。
尚、この著者のいつものパターンで、主人公の日本人男性は武道(今回はボクシング)に心得があります。

不格好に背が小さく、人を食ったようなところがあるのに人望はあり、日本語も喋る謎多き男、エル・ドゥロ。
盗まれた金を取り返す筈が、いきがかりでその男と犯罪行脚に出ることになり、その後はインチキ賭博、密造酒略取、遺産受け取りと
憎めない悪事を愛すべき仲間(ろくでなし)たちと繰り広げる、この上なく気持ちの良い犯罪小説。
 時にギリギリで大失敗し、時に計画通りに成功する軽犯罪(被害は甚大)に、自分みたいな小市民は胸のすくような思いがする。
ただ、この作家の作品には珍しく主人公達は悪人以外は殺さないし、物語後半までは死体の群れも現れない。
無闇やたらと口をぽっかり開けた死体が転がる他の作品とは、その点で一線を画している。
ラストはマフィアが絡んできてややきな臭い展開になっているが、作品全体に流れるコメディ感覚は失われずに残っている。
また、この作家のハードボイルドな作品ばかりを読んできた方にも、新鮮な驚きがあることだろう。
にしても、他の作品でもあったけど、「どんくさくて何の役にも立ちそうもない奴が、実は銃(ナイフ)の達人で、
最後のマフィアどもとの戦いで戦力の一旦を担う」ってのはあんまり乱用しない方がいいと思う・・・。

 ちなみに、物語の要所で流れる「蟹喰い猿フーガ」も、ラストでようやく作者と歌詞が判明する。
その内容は真面目にとっても洒落にしても秀逸だが、大の男がこの歌詞を必死に考えているシーンは微笑ましくもある。

0 件のコメント:

コメントを投稿